仮バンド『二枚目』インプレッション | 私、BABYMETALの味方です。

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★今日のベビメタ
本日2月13日は、2020年、ドイツ・ケルン公演@Carlswerk Victoriaが行われる日DEATH。なお、BABYMETAL登場は、日本時間2月14日05:00頃と推定されます。

先月1月29日に仮バンドのミニアルバム『二枚目』がリリースされた。
Amazonで予約していたので、ぼくの家には前日に届き、車のハードディスクに取り込んで聴いていたのだが、幕張のライブレポートや「最終楽章」の考察を書いているうちに、汎ヨーロッパツアーが始まってしまい、インプレッションをアップする機会を逸してしまっていた。


前作『仮音源-Demo-』と同じく6曲構成のミニアルバム。
参加ミュージシャンは、ベースBOH、ドラムス前田遊野の二人に、故・藤岡幹大の盟友ISAO、直弟子にあたる岡聡志と平賀優介がギターを担当。前作にも参加したキーボード&ハーモニカの西脇辰弥、ピアノの桑原あいの各ミュージシャンに、今作ではホーンセクションとしてトランペットの小林洋介、トロンボーンのたなせゆうや、ヴァイオリニストの星野沙織が加わっている。
ご存知と思うが、BOH、前田遊野、ISAOの各氏は神バンドのメンバーであり、平賀優介も2018年12月のシンガポール~オーストラリアツアーで、神バンドの一員としてBABYMETALに帯同した。
ヴァイオリンの星野沙織は、ISAOとのインストゥルメンタル・ユニット soLiを組み、『二枚目』の1週間前の1月22日に1stアルバム『soLi』をリリースした。
『soLi』にはベーシストとして瀧田イサム、BOHの両氏、ドラムスに前田遊野、原澤秀樹が参加している。瀧田イサムは、ご存知の通り6弦ベースの使い手で、2017年1月のソウル公演では、神バンドのベーシストを務めた。
原澤秀樹は、2018年11月以降、BOH、ISAOとともに浜田麻里のライブバックバンドを務めているドラマーである。青山神より2歳年上だが、イケメンで、字は違うけど同じヒデキ。
今年3月のKnotfestでは、浜田麻里とBABYMETALが同じ日に同じステージに上がる。神バンドはどういうメンバー構成になるのかな。
藤岡幹大がメタル銀河の彼方へ昇天されて2年。神バンドの絆で結ばれたミュージシャンたちは、様々な形でコラボレーションしつつ、新しい音楽を生み出している。
しかし、『METAL GALAXY』『soLi』『二枚目』を聴いた後では、こんな「上から目線」な文章が恥ずかしくなる。この三枚は、現在の日本人ミュージシャンのクオリティの高さを証する、最高レベルの「演奏」が収録されたアルバムであり、BABYMETALのご縁から、これを聴けるぼくらは幸せの一言に尽きる。

神バンドがきっかけになっているからといっても、仮バンドの音楽のフォーマットはアイドルでもメタルでもない。
ベーシストBOH、ドラマー前田遊野は、アイドルのバックバンド、メタルアーティストのサポート、Djentからフリージャズまで、あらゆるジャンルの演奏技術を兼ね備えたセッション・ミュージシャンであり、その彼らが自由に、やりたい音楽をやるのが、仮バンドプロジェクトである。
今作ではホーンセクションが加わり、フリージャズ的な曲もあって、よりフュージョンの「深度」が高まった。
ライナーノーツと2月4日の「BOHの大暴走」配信動画を参考に解説してみたい。

1.    侍Groove(ギター:岡聡志、平賀優介)
BOH氏によれば、冒頭のメインテーマのフレーズは藤岡氏の作ったフレーズとのこと。それを愛弟子の岡聡志にアーミングまで忠実にコピーしてもらい、その他のソロは「和風&未来感」を出したかったので、Em7(11)のバッキングのループをバックに、ギターソロとベースのリフはBフリジアン・スケールを指定したという。シンプルな構成だが、ドラム、ベース、ギターの演奏はスリリングで、確かに映画『ブレードランナー』のアジア人でごった返す近未来のロサンゼルスの路地裏のような雰囲気が出ている。
ドラムソロのあと、ツインギターになるところは、岡聡志と平賀優介のアレンジ。「Brand New Day」のTim HensonとScott LePageよりもカッコいいぞ。YouTubeにMV(EDIT ver.)がアップされているが、出演しているギタリストは岡聡志だけである。
2.    Bewitching(ギター:ISAO、ヴァイオリン:星野沙織)
「Bewitching」とは「妖艶な」の意味とのこと。
最近の神バンドでは弾く機会がなくなったBOHのスラップベースから曲に入る。
そこへISAOと星野沙織が入ってくる。BOHがテーマのメロディを書いているが、その後は二人にお任せしたという。
『soLi』は、メタルギターとクラシックヴァイオリンが火花を散らし、ブラスト・ビートに乗ってパワーメタルを展開する「もう一つのフュージョン」である。
だが、この曲ではISAOのギターはものすごい速弾きでDjentのテクニックを存分に聴かせ、星野沙織のヴァイオリンはあくまでも流麗にメロディを奏でる。合わせ鏡の多次元世界のような音空間が現出する。
BOH氏は、最近のスティーブ・ヴァイがヴァイオリニストと共演しているのを意識したというが、最後のリフからの連続5拍は、むしろ映像的に、まるで美女が振り返った瞬間の残像を表現するような終わり方である。
3.    Dancing Baloney(ギター:岡聡志、キーボード:西脇辰弥)
仮タイトルは「BOHラテン」で、リリース間際になって「たわごと」という意味の「Baloney」にしたとのこと。繊細なベースソロから始まるが、ソロの終わりには爪の表面でジャランと弦をはじくフラメンコギターのラスゲアード奏法を6弦ベースでやっている。
コード進行はスパニッシュ・マイナー、リズムはサンバ。だがこの曲にはホーンセクションは入らない。そのままBOHによる主旋律に入り、岡聡志がその上でハモる美しいメロディを弾く。複雑なユニゾンから、Mr. Bigを意識したというベース、ギター、ドラムスのヘヴィな掛け合いが始まり、主旋律を挟んで、またもやBOHのスラップベースから一転して、西脇辰弥のピアノが入り、同じコード進行のまま、リズムが変わり、細かいアーミングやワウを使ったテクニカルかつ美麗なギターソロへ。最後はディレイが空間に消えて終わる。超絶技巧のフュージョンラテン幻想曲といった趣き。
4.    U-yeah!!!(ギター:岡聡志、キーボード:西脇辰弥、ホーンセクション:カルメラ)
西脇&前田作。仮タイトルは「ゆうやファンク」だったという。
確かにシンプルな四分の四拍子のファンクなのだが、ドラムスの前田遊野が複雑なシンコペーションのリズムを叩き出すから、BOHもスラップベースで応戦し、スリリングな演奏になっている。カルメラのホーンセクションが入るとフュージョン色が強くなる。そこへゆったりしたメロディで場を落ち着かせるギターは岡聡志。
そこから西脇辰弥のブルージィかつ豪快なオルガンソロが始まる。サックスが入るとジャズっぽさが強くなるが、バックのドラム&ベースは「はずし」の応酬。四拍子を123・123・12のリズムで演奏している。岡聡志のギターがまたもや場を落ち着かせ、ホーンセクションがとんでもないユニゾン率の早いパッセージを奏で、曲の終わりへ向かうが、最後までベース&ドラムスが戦い抜いているのが楽しい。
5.    Cloud Funding(ギター:岡聡志、ピアノ:桑原あい)
BOH氏によると、事前打ち合わせもなく、多忙な桑原あいがコード進行とメインテーマだけを書いた譜面を持ってスタジオに駆け込み、ほとんど即興で合わせ、一発録り4回のうちの3テイク目を収録したという。そのため、ライブツアーでも桑原あいのいないセットでは演奏不可能とのこと。
曲構成は、キーとメインテーマだけを決めておき、あとは演奏者が即興する山下洋輔流フリージャズに近く、緊張感にあふれる。
導入部のメインテーマからBOHのベースソロが終わったあと、始まる桑原あいのピアノは、ぼくの大好きなキューバの天才ピアニストゴンサロ・ルバルカバと山下洋輔を合わせ、より情念を込めたようなタッチを持っている。
そこに絡むドラムスとベースも完全なインプロヴィゼイション。岡聡志のギターの伴奏は、通常ジャズでは使わないアーム・ビブラートを交えたコードワークで、柔らかいタッチだが十分攻めている。
確かにこれはBOH氏のいう通り二度と再現できないだろう。
だが、それだからこそ、デジタル音源なのに、生身の音楽世界が聴く者の前に現出する。
さすが仮バンド。これが聴けるのが幸せでなくて何だろうか。
メインテーマの繰り返しのあと、リズムが変わり、明るくなって終わる。しばらく余韻に浸っていられる凄い演奏である。
6.    I See You(キーボード&ハーモニカ:西脇辰弥、ホーンセクション:カルメラ+たなせゆうや)
西脇&BOH作。藤岡幹大に捧げた曲で、前作と同じく3拍子のフィニッシュ曲となった。
Key=Aのシンプルなコード進行。キーボードはハモンドオルガンの音色でゴスペルソングのような雰囲気を醸し出す。
BOHのフレットレスベースのメロディが優しい。
西脇辰弥のハーモニカがユニゾンで切ないメロディを歌い上げ、前田遊野の気持ちのこもったドラムスが鳴り響くと、なぜか真っ赤な夕焼け空が目に浮かび、ミュージシャンたちの藤岡氏への思いが全身に押し寄せ、涙が込み上げてくる。
サックス、トランペット、トロンボーンが力強くサビを支えるが、ギターは入らない。ライナーノーツによれば、藤岡神が入る余地を残してあるのだという。
ベースのアカペラがメインテーマを奏で、ハモンドオルガンの和音で終わるベタな編曲である。だが、あれほどのテクニックを聴かせた最後の曲だからこそ、聴く者の心を揺り動かす力がある。
感動の一曲である。

このアルバムに歌は入っていない。だが、すべての楽器が歌うのだ。
これが本当の演奏力というものだろう。『二枚目』は、あらゆる情報が消費されていく時代に、「演奏」というものの価値を堪能できる。必聴盤である。