エルフの国へ(4) | 私、BABYMETALの味方です。

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★今日のベビメタ
本日1月2日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

2007年にアイスランド大学が行った調査によれば、アイスランド人の8%が「エルフは確実にいる」と考え、54%が「いるかもしれない」と考えているという。
アイスランド語でエルフはHuldufolk(Hidden People、隠された人々)と呼ばれ、小さくて醜い妖精ではなく、人間と同じような姿、というより美男美女のイメージだという。
ちょっとだけ人間より耳が長く、17世紀ごろの衣装を着ていて、踊るのが大好きで、岩の下の彼らの住処では、いつも宴会を開いているらしい。
17世紀の衣装ということは、彼らが踊る音楽は、元祖クラシカル速弾きギタリスト、リッチー・ブラックモアが、当時の婚約者キャンディス・ナイトとともに1997年に結成したブラックモアズナイトみたいな感じではなかろうか。


当時、リッチーは元モデルの金髪美人キャンディスに骨抜きにされ、ロック魂を失ったと散々こき下ろされたものだが、『ヤング・ギター』1997年6月号のインタビューで、リッチーは、1974年ごろからルネッサンス期のミンストレル音楽に興味があったと語っていた。
ルネッサンス=17世紀の音楽こそエルフの音楽であり、古ノルド語同様、イギリス、ドイツ、北欧を含む古代ゲルマン~ノルマン民族の心に沁みついた音楽の源流だと考えれば、ハードロックにクラシカルな旋律を導入したリッチーが、ギター人生の最後に探求したくなったのもうなずける。
ではなぜ、アイスランド人は、このようなエルフ像を思い描いたのか。
それはアイスランドの悲惨な歴史と無関係ではない。
1241年、『エッダ』の作者で、政治的リーダーでもあったスノッリ・ストゥルルソンが暗殺され、アイスランドは1262年にノルウェーの支配下に置かれた。
1300年、アイスランドのヘクラ火山が大噴火。
1397年、女王マルグレーテ1世のもと、強大になったデンマークは、ノルウェー、スウェーデンを支配下に置く(カルマル同盟)。アイスランドは、デンマークに従属するノルウェーに支配されるという二重の植民地状態となったわけだ。
1402年にアイスランドでペストが流行し、全島民の3分の2が死亡する。
1523年、グスタフ1世のもと、デンマークに反旗を翻したスウェーデンがカルマル同盟から離脱し、デンマーク=ノルウェー二重王国が成立するが、アイスランドの地位は変わらなかった。デンマークが宗教改革によって新教ルター派の国となると、アイスランド人も強制改宗させられた。
宗主国のデンマークは、ドイツ30年戦争(1626年)、トルステンソン戦争(1643年)、大北方戦争(1700年)で負け続け、没落していくが、アイスランドがデンマークに支配される構造は変わらなかった。
1783年、アイスランドのラキ火山が大噴火し、牧羊業に壊滅的な被害が出る。その後、世界的に寒冷な気候が続き、わが国の天明の大飢饉もこれに由来すると言われる。


フランス革命後、大陸でナポレオン戦争が起こると、ナポレオンと同盟を組んでいたデンマークはまたも敗北し、1814年、長年支配してきたノルウェーをスウェーデンに割譲されたが、アイスランドはデンマーク領のままだった。
第二次大戦中、デンマークがナチスドイツに占領されたため、アイスランドは、戦略の要衝としてイギリス軍、アメリカ軍に占領され、1944年にようやく独立する。
つまり、1261年から1944年までの583年間、アイスランドは他国の支配下にあったのだ。
アイスランド人は、もともとノルマン系やケルト人の移民の子孫だったが、植民地時代には、人口抑制の名目で、一般庶民には手が届かないほどの財産がなければ結婚してはならないという法律を科せられていた。また、ルター派キリスト教が強制されたため、スノッリの時代には拮抗していた民間信仰=北欧神話にもとづく多神教(ペイガニズム)はご法度となり、祭祀と結びつくため、「踊ってはならない」という法律もあった。
そんなアイスランドの人々にとって、妖精エルフは奪われたアイデンティティの象徴であり、現実逃避であるとともに、「お上」を欺く言い訳の手段でもあった。
例えば、結婚を禁じられている女性が妊娠したら、相手は人間ではなく「美しいエルフに誘惑された」と言えばいい。
月の夜、密かに踊っているところを目撃されたら、「あれはエルフの宴会だ」と言えばいい。
両親共働きでなければ生活できない家庭で、つい目を離したすきに幼い子どもが行方不明になったら、「楽しいエルフの国で暮らしている」と自分たちを慰めることができる。
こうしてエルフと共にあることが、アイスランド人の心の拠り所になった。
「イジメ、ダメ、ゼッタイ」のMVに登場する髭もじゃの男は、音楽を奏でることも、踊ることも禁じられ、白い僧衣を着た男たちに髪を切られ、絶望にくれるエルフ=民衆の心の象徴である。


そこへ登場するBABYMETALは、日本における豊饒の女神フレイヤ=エルフの女王=宇迦之御霊=キツネ様の使者であり、Land of Rising Sunからやってきた音楽とダンスの解放者=救世主そのものなのだ。
(つづく)